「あれ?郁郎くん、まだ居たんだ。珍しいね。残業?」
会社でひとり居残って
仕事のまとめをしつつ、丁度タバコで一服して居たら
同僚の田畠がやって来た。
誰も居無い静かなオフィス。
「おー、うん。
今詰めてる企画書の手直ししとこうかなって気になって
・・・気が付いたら、もうこんな時間かよ。
ちょっと休憩してるとこ。お前は?」
「ん、忘れもの思いだして引き返して来た。
つか、こんなとこで堂々とタバコ吸ってるとヤバいんじゃない」
「明日の朝にはニオイ消えてっだろ・・・ああ疲れた」
「真面目なんだかどうだか判んねーなー」
田畠は俺と同期だし、
それなりに飲みに行ったりもする。
仕事のセンスも有ると思うし、
一緒に居ると気が安らぐ。
でも、どうして俺のことを下の名前で呼ぶんだろ。
それがあまりにも自然で初めて
「郁郎くん」
と呼ばれてからツッコんで尋ねたことは無かった。
・・・ん?
『一緒に居ると気が安らぐ』・・・?
その瞬間、傍にひとの気配を感じ、
次に俺が感じたのは触覚で田畠に手首を
やわらかく掴まれて居た。
かと思うと田畠は俺が今迄吸って居たタバコに
そっとくちを付け、ゆっくりと吸い込み
顔の角度を変えて煙を旨そうに細く、吐いた。
その一連の動作があまりにも自然だったので
されるがままにポカン、として居る俺の目を
至近距離で見つつ「換気、ちゃんとしとけよ」と
妙に腹の奥底に響く声で田畠は云った。
そして、奴はすたすたとオフィスのドアへ向かって行った。
「なあ、おい田畠!お前、忘れものは?」
「んー、ちゃんと済ませた。じゃね、御先ぃ」
『済ませた』・・・?
『済ませた』・・・
あ。部屋を換気しねえと。
思考がうまく働かなくなりつつも、云われた通りに窓を開け、
外をこっそり見ても、其処にはもう田畠は居無かった。
●間接キス
リーマンものです。
全てのマイノリティにまつわる御話が綴れたらいいなぁ。
云う迄も無く名前などは実在する人物では御座居ません。
それから無断転用も止めてネ。
するひとが居るたぁ思えませんが。
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- 2014/03/27(木) 13:58:52|
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